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車は雨の街を走り出した。
濡れた道路にテールランプの赤が映って、とても綺麗。
ワイパーが激しく動いているのに、フロントガラスはすぐに雨粒でいっぱいになっていた。
また、彼に助けられてしまった。
こんな、横殴りの雨のなかを歩いて電車に乗ったら、迷惑なほど濡れてしまったに違いない。
それにしても……
今、内田さんの隣に座っているんだよね。
あまりに唐突な再会に、なかなか実感がわいてこない。
けれど、ひと月近くも会っていなかったのに、まるで昨日別れたばかりのような気がしている。
どうしてこんなに、すぐに馴染んでしまうのだろう。この人とは。
「で、仕事のお話というのはどんなことですか?」
彼はまあまあ、そう焦らないでと、なかなか教えてくれない。
「あのときは5月だったよね。じゃあひと月ぐらい前か。きみと出会ったのは」
「そうですね」
「もっと会えなかった気がするよ。実はきみと別れた翌日からヨーロッパに1週間、出張に行っていて、帰国後もバタバタしていたから」
「はあ、そうだったんですね」
内田さんは隣の席から流し目を送ってくる。
「本当はもっと早く、きみに会いに来たかったんだけど」
そう言われて、内心、嬉しさがこみあげてきた。
内田さん、わたしのこと、忘れていた訳じゃなかったんだ。
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