15 忘れえぬ記憶

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 * 「お世話になりました。時々、塀の上にショートブレッドを置いておきます。ワタリガラスから受け取ってください」  キーヴァとウィロウの金銀の瞳は、篝火を反射してきらきらと輝いている。 「だ……誰も欲しいなんて言ってないでしょ」 「ど……どうしてもって言うなら仕方ないけど」  猫たちの後ろにいる王は、ぼくに背を向け、赤い三角帽子を指の先でくるくる回している。  レプラホーンと王が「じっくり話し合った」結果、レプラホーンはおばあちゃんとの「契約」を終了することにしたらしい。そして、他に妖精との契約が切れた人たちと一緒に、天の国へ上る。  近く異界をかすめて通る、大きな箒星に乗って。 「王様。ありがとうございました」  ぼくが背中にかけた言葉に、ふん、と笑う声が答えた。顔だけがわずかにぼくを見る。 「帰りは未来(タオフィ)に乗って行け。面白いぞ」 「はい……」ぼくは言おうかどうしようか迷って――でもどうしても言いたくて、付け加えた。「また、来ます。夢の中を漂うみたいに」 「それは、それは」からかうような口調は、低く、威厳のある口ぶりに変わった。「お前はここに来れたのだ。どこへだって行ける」  言い終わると、王は暗闇のコートを翻した。「過去(アン・タームタハト)! 帰るぞ」  大股で丘を上っていく王を、キーヴァとウィロウが慌てて追いかける。「王様! サンザシまで送っていただいても?」「馬が待ってるんです!」  王と猫たちを乗せ舞い上がったワタリガラスは、真っ直ぐ東へ向かって飛び去っていく。  ぼくは、おばあちゃんと並んでそれを見送った。
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