15 忘れえぬ記憶

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 *  ワタリガラスは、手を振るケイトリンおばあちゃんの上を何度か旋回し、満月の方角を目指して飛び始めた。  どこまでも安らかで平らかな世界。ワタリガラスの背の上で、ぼくは異界の空気を何度も肺に溜める。  ――未来は扱いが難しい。  王はそう言っていたけれど、今のところ順調だ。逆に、居眠りしないように我慢する方が辛い。フランネルのシーツのようなフワフワの羽毛は、安心と疲れで満杯のぼくを、すっと沈ませる。慌てて目を開ける。最後の最後に「落下してエンドロール」にはなりたくない。  すっきりと晴れていた空に、だんだんと雲が湧き始める。異界と現世の境界が近づいてきたんだろうか。異界の丘も雲に見え隠れするようになる。  胸がすっと重くなる。  一秒でも早く帰りたい。そう思っていたはずなのに。  やがて眼下は、一面雲に覆われた。  異界は白く輝く雲海に静けさを譲り、ぼくの前から消え去っていった。  真っ直ぐ飛んでいたワタリガラスが、さっきからお腹を雲にこするほど高度を下げては、はっと気づいたように羽ばたきを強める、を何度か繰り返している。  思えば、ケイトリンおばあちゃん探しで飛び回ったあとの、今。ワタリガラスだって、疲れているのかもしれない。  ぼくはリュックからショートブレッドを取り出した。 「ショートブレッド、食べる?」  頷くように頭が前に下がる。 「嘴、届かないな。投げたら、取れる?」  また頷く。  ぼくが前方に投げると、ワタリガラスはすうっと滑空して器用にそれをキャッチした。「ありがとうございますぅ」と潤んだ目でちらと後ろのぼくを見る。  そして、ワタリガラスはまた高度を下げ始めた。 「疲れてる? 休んでもいいよ」  ワタリガラスは首を横に振り、嘴でつつくような仕草をした。何かを教えたがっているみたいだ。リュックを背負い直したぼくは、首を伸ばしてワタリガラスが指す先を見た。  雲が切れ、下界が覗いていた。  そこは異界と同じように、青くのどかな丘の連なりが続いていた。  違っているのは、ぽつぽつと並ぶ人工の明かり。  見慣れた街灯の白。道を行く車のヘッドライト。家々の窓から漏れるオレンジの灯。 「戻って来た……」
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