16 黒い犬と白い紙

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 ローガンの目が一瞬小刻みに揺れた。首筋から順に、みるみる顔が赤に染まっていく。「Cクラス」のぼくに歯向かわれ、うろたえ、湧き上がってくる怒りがそのまま表れたように。  ついでに、ぼくは王の口真似をする。 「ローガン。あとで話そう」  ローガンの顔は赤を通り越して赤紫色になる。「調子こいてんじゃねえ。ぶん殴るぞ、てめえ」  リアムがあごでぼくを促した。「もう相手にすんな。行こうぜ」  ぼくは一つ思い違いをしていた。  吹き抜けを川のように流れてくるの大勢の中には、不穏な雰囲気のぼくたちをチラチラ見ていく人がいる。警備員だって、きっとその辺に居る。  だから、殴るなんてどうせ口だけだろう、と。  煮えたぎったローガンには、関係なかった。  ぼくが歩き出すより早く、顔を歪ませたローガンの右腕がぼくめがけて大きく振り上がった。  同時に横で、リアムの足がボールを蹴るように動いた。  ――だめだ!  咄嗟にぼくはリアムの足の前に入った。チームメイト相手に暴力沙汰なんか起こしたら、きっとレギュラーを下ろされる――。  顔に拳か、背中に足か、両方か。ぼくは反射的に目をつぶる。次にぼくの身に起きた不幸は――。  乱暴に締まった、パーカーの首。 「オェ!」  ぼくは背中を引っ張られ、仰向けにひっくり返った。柔らかいものの上に転がる。リアムの腹だ。慌てて足を引っ込めたリアムが、倒れながらぼくのパーカーを掴んだにちがいない。  空振りしたローガンの拳が宙を巡る。勢い余ったローガンはバランスを崩し、くるりと回れ右をした。  そして――吹き抜けから音が消えた。
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