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2 「その時」
「ばあちゃんが帰ってくる」
ぼくの正面に座るリアムは、そう言ってお弁当のサンドイッチを一口かじった。
「……そっか」とぼく。
大勢の生徒でごったがえすランチルームは、おしゃべりの嵐のまっただなかだ。数は少ないけれど、時々女子の笑い声の突風が混じる。ぼくの声はリアムの耳まで届かなかったかもしれない。
ジュニアスクールに入学してひと月、分かったことが一つ。
ぼくたち一年生は上級生の動きに目を配りながら、隅っこでお弁当をかっこまなければいけない。たとえ他の椅子が空いていても、上級生が横に立ったらそそくさと移動しなければならない。気兼ねなくお弁当を食べるには中庭の芝生に座るしかない。雨が降らなければ、だけれど。
それなのに、リアムはランチケースを開いたきり、目の前のサンドイッチが見えていないような顔で視線を宙に浮かせていた。クラッカーをかじりながら「食べないの?」と訊くと、この答えが返ってきたのだ。
リアムは噛み痕のついたサンドイッチをケースに戻した。「会いに来られる?」
「うん」
かじりかけのクラッカーを口に入れた。こめかみでクラッカーがぱり、ぱりと鳴る。飲み込むと、ぐっと喉に詰まったような感じになった。
さっきのリアムと同じように、ケースに数枚残っているクラッカーをぼんやりと見た。
去年、難しい病気で入院したリアムのおばあちゃんは「最期を家で迎えたい」と言っていたらしい。
おばあちゃんが帰ってくる。
つまり、そういうことだ。
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