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車は歯医者やコンビニ、花屋、動物病院、パブ、スーパーマーケットが建ち並ぶ通りを抜け、古い住宅街へと入る。どれもよく似た白かクリーム色の壁、濃い灰色の屋根瓦、煙突。まるでスタンプを押して作ったような家並み。
ママの話を耳で半分聞きながら、頭の半分では別のことを考えていた。
もうすぐ家に着いてしまう。それなのに、答えはまだ見つからない。考えついた言葉はどれも薄っぺらの紙だ。
ぼくは助手席の窓に頭を押し付けた。丘の向こうに積まれた雲から、ヤコブの梯子が地面に向かって金色の光を差し伸べていた。おばあちゃんはそう遠くない明日、そこを昇っていく。
「ママ、あのさ……」
「何?」
ゆるい左折。からだが右に揺れる。
「……おばあちゃんに、何を言えば?」
止まれの標識。車がギッとブレーキを軋ませる。アイドリングの音がふっと止んだ。
「何も」
「……何も?」
「手を握ってあげて」
「……うん」心の中で舞っていた砂粒がさらさらと静かに落ちていく。「分かった」
車はふたたび走り出した。道のつきあたりに、二軒の平屋が見えてくる。奥はリアムの家。
手前の家の庭にちょうど青い車が停まった。中から「ママが一目惚れした、一瞬だけ見ればコリン・ファレル」が降りてくる。パパだ。
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