2 「その時」

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 車の横でぼくたちを迎えたパパは、首に「カナハート総合病院リハビリ科/理学療法士/クレイヴ・ウォルシュ」のネームタグをぶら下げたままだ。カギを開けにいくママに「おかえり、ロージー」と軽く頷いて、それからぼくのほうに歩いてきた。 「だいじょうぶか?」 「……うん」  ぼくはリアムの家にちらっと目をやった。それぞれの部屋にはすでに明かりが灯り、窓ガラスは白い光を放っている。あのガラスの向こうに、おばあちゃんがいる。――死にかけたおばあちゃんが。 「怖いか?」  ぼくの心を見透かしたパパの問いに、首を横に振る。「平気」 「顔が青い」 「……そう?」 「アーティ――」  パパは突然、ぼくの前で膝を折った。両腕がぼくの背中に回る。  痛いほど強い力が、ぼくを抱きしめた。  パパとぼくはどっちも「はにかみ屋」で――だから、こんなことはほとんど――滅多に、ない。  苦しいから止めて、ともがいてもよかった。恥ずかしいよ、と押しのけてもよかった。けれどぼくは、わざと身動きがとれないふりをした。リアムの家の窓から漏れる白い光が、ぼくをそうさせていた。  パパの腕が緩み、ぼくの物怖じもふっと緩む。立ち上がりながら、パパはぼくの耳元でゲール語の短いことばを囁いた。 「……いま何て言ったの?」 「ああ……それは……『さあ、行こう』って言ったんだ」  ――Ná téigh áit ar bith(ノォ ティアウトァー ベス).
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