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車の横でぼくたちを迎えたパパは、首に「カナハート総合病院リハビリ科/理学療法士/クレイヴ・ウォルシュ」のネームタグをぶら下げたままだ。カギを開けにいくママに「おかえり、ロージー」と軽く頷いて、それからぼくのほうに歩いてきた。
「だいじょうぶか?」
「……うん」
ぼくはリアムの家にちらっと目をやった。それぞれの部屋にはすでに明かりが灯り、窓ガラスは白い光を放っている。あのガラスの向こうに、おばあちゃんがいる。――死にかけたおばあちゃんが。
「怖いか?」
ぼくの心を見透かしたパパの問いに、首を横に振る。「平気」
「顔が青い」
「……そう?」
「アーティ――」
パパは突然、ぼくの前で膝を折った。両腕がぼくの背中に回る。
痛いほど強い力が、ぼくを抱きしめた。
パパとぼくはどっちも「はにかみ屋」で――だから、こんなことはほとんど――滅多に、ない。
苦しいから止めて、ともがいてもよかった。恥ずかしいよ、と押しのけてもよかった。けれどぼくは、わざと身動きがとれないふりをした。リアムの家の窓から漏れる白い光が、ぼくをそうさせていた。
パパの腕が緩み、ぼくの物怖じもふっと緩む。立ち上がりながら、パパはぼくの耳元でゲール語の短いことばを囁いた。
「……いま何て言ったの?」
「ああ……それは……『さあ、行こう』って言ったんだ」
――Ná téigh áit ar bith.
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