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昇降式のベッドに横たわるおばあちゃんは、ひと月前に病院で会った時より、すべてが半分くらいに縮んでいた。点滴チューブに繋がれ、青白く、痛み止めが効いたぼんやりとした眼差しでぼくを見ると、にっと笑った。
「アアティィ」
おばあちゃんは小枝のような指をぼくに伸ばし、ぼくの頬をさすった。血の温かみを感じない、ひんやりと冷たい手。
ぼくはその手をそっと握った。何度も息をのみこんで「おばあちゃん」と一声、絞り出した。
おばあちゃんの反対の手は、赤い目をしたリアムの手の中にあった。
背中で、リアムのおじいちゃんがぼくのパパに囁く声がした。
「その時は、一応救急車は呼ぶがね。どうしようもないときの処置は本人が望んでないんでね……」
次の日の朝、まだ辺りが濃い紫色の時間に「その時」はやってきた。
救急車の青く明滅する光がぼくの部屋の窓を照らしていた。その光がひっそりと立ち去るまで、ぼくはベッドの中で身じろぎせずそれを見つめていた。
光の加減か気のせいか、青い光がすっと消えたそのとき、窓辺のカーテンがふわりと揺れた。
「さよなら」ぼくはつぶやいた。「ありがと」
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