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1 これは、ほんとうにあったことなんだよ
それが始まるのは、いつも夕食の後。
若草色のソファに座るヘイゼルおばあちゃんが、リアムとぼくを手招きする。
「リアム。アーティ。おいで。お話の時間だよ」
ここはリアムの家で、呼んだのはリアムのおばあちゃん。ぼくはお隣に住んでいて、ときどきリアムの家にお泊りする。
ぼくたちはめいめい、小さい手で一人掛けのソファをずずず、とおばあちゃんの横に寄せる。
冬なら、ソファの前にある暖炉ではパチパチとオレンジの火がはぜている。リアムのママがぼくたちの手にホットチョコレートをなみなみと注いだカップを乗せる。
すべての準備が整ったところで、おばあちゃんがぼくたちの目を覗き込んで言う。始まりの文句はいつも同じだ。
「これは、ほんとうにあったことなんだよ――」
岩山を投げ飛ばし、一晩で別の場所に移した巨人。アザラシの毛皮をまとった、恋する人魚。古い砦に現れる呪いの黒い犬。妖精の木を切り倒した農場主にふりかかる災難。異界に行った勇敢な王子の冒険譚……。
おそろしい妖精の王の話を聞いた後、リアムがこわごわ、おばあちゃんに確かめる。
「ほんとうじゃないでしょ?」
けれど、おばあちゃんはそれをぼくたちの心に打ちつけるように、話の終わりもこう締めくくる。
――これは、ほんとうにあったことなんだよ。
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