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夕方……と言っていいのかわからないが、おひさまとか言う花が少しずつ閉じてゆくと辺りは徐々に薄暗くなる。そんな頃、いつものようにザルイルが仕事から戻った。
ザルイルは、夕食の支度をしながら俺に話した。
「朝と昼は、出来合いやハンで済ませてしまうから、その分夕食だけは私が作ろうと思ってはいるんだが……」
ハンというのは、パンのように数日保存できるふわふわもこもこした食べ物だ。味も見た目もパンに近いが、この世界にも小麦があるんだろうか?
料理をどでかい机の上に並べ終わって、ザルイルが子ども達を呼ぶ。
良い父であるザルイルだったが、残念なことに彼はあまり料理が得意でないらしい。
今日も、子ども達は出された料理を一口食べて、難しそうな顔になった。
いったい今まではどうしていたのかと思えば、俺を拾う前日までは通いの家政婦さんを雇っていたらしい。
その人が腰を痛めて辞めてしまい、今は代わりの人を探してもらっているところだと言う。
「私より魔法や術に詳しい者に相談してみたのだが、ヨウヘイが我々ほどに大きくなるためには、体を構成するための要素がたくさん必要になる」
子ども達より先に食事を終えたザルイルが、俺に大きな手を差し出してくる。
「ヨウヘイ、私の手に乗ってもらえるだろうか」
ライゴが俺を机の上に乗せていたので、俺はそのままその大きな手に乗った。
それにしてもデカい。
ロボット物の、ロボットとパイロットくらいの大きさの違いがあるな……。
ザルイルは何やら呪文のようなものを唱える。
俺の乗った手が一瞬だけほわんと光った。
「?」
「うーん。君には魔力がほとんどないね」
言われて、正直がっかりした。だって異世界転移ともなれば、そういうのってなんかこう、桁外れに持ってたりしそうだろ?
まあしかし、俺の場合は状況も状況だし、夢の中みたいなもんなんだろうな。
俺は俺のままでしかないらしい。
ここで死ねば目が覚めたりするのかも知れないが、イキナリそれを試すほどの度胸は俺にはない。
「これは友人のアイデアなんだが……」と、ザルイルが提案したのは、ライゴとシェルカを半分の大きさにして、その分の要素を俺に注ぐという案だった。
「そんな事が……できるんですか……?」
俺の言葉にザルイルは柔らかく微笑んで「できるよ」と答えた。
「ただ、本人達の了承が必要だけれどね」
それはもちろん。と俺が頷けば、ライゴはすぐに「僕いいよっ!」と答える。
ザルイルは、そんな息子にほんの少し目を細めて、真剣な表情で語りかけた。
「ライゴ、よく聞きなさい。これにはリスクがある。お前はその間、いつもより小さい大きさで過ごさないといけないよ?」
「うんっ」
「できることも、いつもの半分だ。逆に、ヨウヘイはお前と同じ大きさになる。シェルカの同意があれば、お前の倍ほどの大きさになるだろう。ヨウヘイが、お前達を攻撃しようと思えば、お前達はやられてしまうかも知れないよ?」
「え……」
ライゴが、考えてもいなかったという顔でザルイルを見上げて、それから俺を見る。
俺は、苦笑を返した。
襲ったりなんかしないよ。と思いはしたが、それを口にしたところで何の保証にもならないだろう。
しかし、俺に懐いているライゴはともかく、ザルイルはこんな提案をしてくるほどに俺を信用してくれているんだろうか。
それとも、この世界の住人たちはこんな小さな子にも自己責任を負えと言うのだろうか。
「うん……、大丈夫。僕、それでもいいよ」
ライゴの決意のこもった言葉に、ザルイルは大きな大きな手で息子の頭を優しく撫でた。
「シェルカは、まだ気にしなくていいよ。その気になったら声をかけておくれ」
ザルイルはそう言って娘の頭も撫でた。
嬉しそうに目を細めるシェルカ。
うーん。父親にはこんな顔も見せるんだよな。俺の前ではいつも不安そうに固まった顔ばかりだが。
まあ、今までだって人見知りはどのクラスにもいた。こういうのは、焦っちゃダメなんだよな。
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