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第一話 byアズマ
私は家に帰ってすぐ、仕事用のカバンを床に放り投げ、机の上のノートパソコンを立ち上げた。そして、ブックマークされた小説投稿サイトの「絹川あずさ」のマイページを開く。
絹川あずさ、この小説投稿サイトにおける、私のペンネームだ。マイページの一番上には、自動更新されたばかりの長編の連載小説がある。クリックしてみると、数人の読者からコメントが入っていた。それを見て、私の心がときめく。
私がネットに小説を投稿し始めたのはちょうど一年前、社会人になって二年が過ぎた頃だ。大学の時から自己満足で小説を書いていたのだけれども、ものは試しにと投稿サイトに公開してみたのだ。初めはなかなか読んでくれる人もいなかったが、コンテストで受賞するなど、少しずつサイトでの知名度を上げ、読者も増えていった。今では両手で数えられないほどの読者がつき、作品を投稿する度にいつもコメントを送ってくれる。
一つ一つのコメントを確認していく。『続きが気になります!』『まさかこんな展開になるとは……』そういったコメントが並んでいるのを見て、思わずニヤけてしまう。仕事で荒んだ心に、そのメッセージは潤いを与えてくれた。このサイトの活動だけが、人生における癒しだった。
ふと、チュイッターの方を見てみると、ある人からダイレクトメッセージが送られていることに気づいた。それは、同じ投稿サイトで活動する「ヒロト」という作家からだった。
彼とはサイトに登録し始めた頃からの付き合いだ。たまたま同じコミュニティに参加していて、作品の感想を送り合ったり、自主企画に一緒に参加したりもした。おそらく歳も同じくらいで、好きな小説のジャンルも似ていることから話も合い、サイト内で最も心を許している作家と言っても良いくらいだ。
個別にメッセージを送ってくるなんて、いったい何だろうか。コミュニティ内で交流することはあっても、彼からダイレクトメールが来るのは初めてだった。マウスを操作して、メールの中身を確認する。そこに書かれた内容に、私の思考は停止した。
『あずささんのことが好きです』
私は十回ほどメッセージを読み返す。何回読んだって、その内容は変わらなかった。一度、深呼吸をする。震える手でマウスを動かし、チュイッターの画面を消す。もう一度開いてみるが、やはり、そこには、こう書かれていた。あずささんのことが好きです。
「え、ちょ、どういうことなの!?」
一人きりの部屋で、私は思わず大声で叫んでしまった。
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