第三話 by東里胡

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第三話 by東里胡

 その日の夜のことだ。 『あずささん、この間はすみませんでした』  風呂上がり、チュイッターのダイレクトメールに届いていたのは、ヒロトさんからの謝罪。  たった一言の『すみませんでした』の意味を考える。 ・悪ふざけでした。すみません。 ・悩ませたと思いますが、そういう意味の好きとかじゃないので、すみません。  そんな感じ? そうよね、きっと。  長く励まし合って小説を書いてきた、いわば同志である。  気まずいままで、離れてしまうのは嫌だった。  そう、私が嫌だったのだ。  だから、この機に便乗して、返事をすることにしたのだが……。  開いたパソコンのキーボード、入力して読み直しては何度もバックスペースキーを押す。  返信メールにこんなに悩んだことはない。  悩み過ぎて、一向に進まない。  これならば、小説を書いている方がよっぽど気が楽だ。  それでも、どうにかこうにか出来上がったダイレクトメール。 「ん~……、えいっ!」  勇気を振り絞って、ポチッと押したエンターキーと共にダイレクトメール内に表示された私の返事。 『ヒロトさんってば、また酔ってましたね? ビックリさせないでくださいよ! あの日は、私の心臓が口から飛び出てしまったので、元に戻すの大変だったんですよ? 近くのコンビニまで追いかけたんですからね笑』  すぐに着いた既読マークにドキンとした。  何度も打って出来上がった返信の酷さに、頭を抱える間もなくて、本当に心臓が飛び出るかと思った。 『そんなことになっていたとは、本当にすみません』 『いいんですよ、許します。今回だけですからね! 心臓取り戻すの大変だったんですから!』 『あ、取り戻せたんだ? 良かった』  へ?  あ、そういうことね! そういうノリね?  クスリと笑って、返事をする。 『良くないですよ、コンビニ内探し回ったんですし!』 『うわー、ごめんね、そんな大変だったんだ! で、コンビニのどの辺りに落ちてたの?』 『アイスのショーケースの中に、アイスのふりをして並んでました。誰かに買われる前で良かったです』 『わー、僕が見つけてたら買ってたかもしれないな』 『そんなグロイの買います?』 『だって、あずささんのハートなんでしょ? そんな素敵なものが売ってるなら、買うに決まってるし』  待って? これは、どう返信すればいいの?  考えたら意識しちゃうでしょ!   私のハートが、心が欲しいって言われてる気になっちゃうなんて、自意識過剰にもほどがある。  ねえ、そうだと言って! 『今度切り刻んで、フォロワーの皆様にお届けしますね! 是非その際は、ヒロトさんもお受け取り下さい笑』  バーンとエンターキーを叩きつけて、パソコンを閉じる。  はい、逃げた……、逃げるしかないでしょう?  頭の天辺からつま先まで体温が上昇する。  意識したくないのに、今までのままでいたいのに――。
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