63人が本棚に入れています
本棚に追加
第三話 by東里胡
その日の夜のことだ。
『あずささん、この間はすみませんでした』
風呂上がり、チュイッターのダイレクトメールに届いていたのは、ヒロトさんからの謝罪。
たった一言の『すみませんでした』の意味を考える。
・悪ふざけでした。すみません。
・悩ませたと思いますが、そういう意味の好きとかじゃないので、すみません。
そんな感じ? そうよね、きっと。
長く励まし合って小説を書いてきた、いわば同志である。
気まずいままで、離れてしまうのは嫌だった。
そう、私が嫌だったのだ。
だから、この機に便乗して、返事をすることにしたのだが……。
開いたパソコンのキーボード、入力して読み直しては何度もバックスペースキーを押す。
返信メールにこんなに悩んだことはない。
悩み過ぎて、一向に進まない。
これならば、小説を書いている方がよっぽど気が楽だ。
それでも、どうにかこうにか出来上がったダイレクトメール。
「ん~……、えいっ!」
勇気を振り絞って、ポチッと押したエンターキーと共にダイレクトメール内に表示された私の返事。
『ヒロトさんってば、また酔ってましたね? ビックリさせないでくださいよ! あの日は、私の心臓が口から飛び出てしまったので、元に戻すの大変だったんですよ? 近くのコンビニまで追いかけたんですからね笑』
すぐに着いた既読マークにドキンとした。
何度も打って出来上がった返信の酷さに、頭を抱える間もなくて、本当に心臓が飛び出るかと思った。
『そんなことになっていたとは、本当にすみません』
『いいんですよ、許します。今回だけですからね! 心臓取り戻すの大変だったんですから!』
『あ、取り戻せたんだ? 良かった』
へ?
あ、そういうことね! そういうノリね?
クスリと笑って、返事をする。
『良くないですよ、コンビニ内探し回ったんですし!』
『うわー、ごめんね、そんな大変だったんだ! で、コンビニのどの辺りに落ちてたの?』
『アイスのショーケースの中に、アイスのふりをして並んでました。誰かに買われる前で良かったです』
『わー、僕が見つけてたら買ってたかもしれないな』
『そんなグロイの買います?』
『だって、あずささんのハートなんでしょ? そんな素敵なものが売ってるなら、買うに決まってるし』
待って? これは、どう返信すればいいの?
考えたら意識しちゃうでしょ!
私のハートが、心が欲しいって言われてる気になっちゃうなんて、自意識過剰にもほどがある。
ねえ、そうだと言って!
『今度切り刻んで、フォロワーの皆様にお届けしますね! 是非その際は、ヒロトさんもお受け取り下さい笑』
バーンとエンターキーを叩きつけて、パソコンを閉じる。
はい、逃げた……、逃げるしかないでしょう?
頭の天辺からつま先まで体温が上昇する。
意識したくないのに、今までのままでいたいのに――。
最初のコメントを投稿しよう!