2.颯太とじいちゃん

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2.颯太とじいちゃん

 颯太は、じいちゃんが好きだ。  じいちゃんは、楽しくて優しい。  じいちゃんも、颯太が好きだ。  颯太は、可愛くて優しい。このまま、純粋に育って欲しいと、じいちゃんは思う。  颯太は、じいちゃんが、若い頃はブイブイ言わせてたことを知らない。親を泣かせ、若い頃のばあちゃんを泣かせていたが、今じゃ田舎の年寄りには欠かせない軽トラを転がしている。幸い、まだ息子たちに免許を返納しろとは言われていない。  じいちゃんは、畑仕事をしているが、自分や颯太の家族が食べる分くらいしか作っていない。昔は手広く田んぼもやっていたが、年寄りが一人では無理なので人手に渡した。野菜は店に卸すわけではないので、自分のペースでやっている。夏休みのこの時期は、颯太が収穫の手伝いをしてくれていた。  赤信号で、軽トラが停まった。  雨が多いと、トマトが破裂するなあ。きゅうりも大きくなり過ぎちゃって美味しくなくなっちゃうなあ。  孫に持たせる野菜が少なくなる、と、じいちゃんは心配する。  そうとは知らず、助手席の颯太は、目を輝かせて、交差点の先の公園の方を見る。  標高100メートル程の山の山頂に、その公園がある。そこは地元では桜の名所で、この田舎にこんなに人がいたのかと言う位、その時期は周辺も含めて人出が多い。颯太は、毎年、家族とじいちゃんで花見に来ていた。でも、りゅうじん様の事は初めて聞いた。 「森の中にあるとは聞いた事あるけど、行った事はないなあ」 じいちゃんが言った。 「それって、灯台下暗し?」 「颯太、良く知ってるな」 「昨日、テレビで東京の人は東京タワーに行かないって言ってて。お父さんがそういうのを灯台下暗しって言うんだって」 「なるほどなあ。颯太、頭いいなあ」 「そんなことないよ!お父さんが教えてくれたんだよ!」 颯太は、恥ずかしそうに、両手でばしばしと自分の太ももを叩いた。
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