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4.森の中の神社
男の言った通り、颯太とじいちゃんは、車で来た道を徒歩で戻り、脇道を発見した。山の斜面に作られた枯れ葉に覆われたその階段は、目的を持って来ないと絶対に見落とすだろうと思われた。
颯太とじいちゃんは、ゆっくりと階段を上がって行く。
「颯太、大丈夫か?」
「うん。大丈夫だよ」
二人は黙々と階段を上がって行く。
颯太は確かな足取りで進んでいくが、じいちゃんはそろそろ草臥れて来た。
そのうち、矢印のある看板が見えた。
「神社って書いてあるよ!」
「ほんとだ」
看板が必要な程、参道は山の木々の中に閉ざされていた。雨天の上、木々の上部を枝葉が屋根の様に覆っている為、参道はかなり暗い。雨は凌げるので、じいちゃんと颯太は傘を畳んだ。
颯太は、さっきまでの元気が嘘の様に、黙り込んで顔を強張らせた。この先の参道はもっと暗い。じいちゃんもまあまあ怖かったくらいで、無理も無かった。
「どうする?やめるか?」
「う・・・」
颯太は、寂しがってる龍神様の所に行きたかった。
「行く・・」
「よし。じいちゃん先行くからな。ゆっくりついて来るんだぞ」
「うん」
枯れ葉で覆われた山道を二人はゆっくり進んでいく。
暫く歩くと、開けた場所に石の鳥居が見えた。
「鳥居だ」
じいちゃんは、呟いて、颯太と一緒に一礼した。颯太は笑顔が戻って来た。
この辺りは少し、木々の密集が薄いので、そこまで暗くなかった。
じいちゃんに代わって、颯太が先に立ち、二人は更に階段を上がって行く。
はあはあ言いながら、階段を上がり切って。
「わあ!」
「おお・・」
颯太とじいちゃんは、感嘆の声を漏らした。
そこは、空間が広く、明るかった。
よく見る一般的な神社に比べれば、猫の額ほどしかない、こじんまりとした場所だ。
拝殿は石の洞のような趣の場所で、中に拳大程の鏡が置かれていた。その下に、後から置かれたのか、取って付けた様に申し訳程度の小さな木の賽銭箱が置かれていた。
そして、洞を護ろうとするかのように、年月を重ねた巨大な木が何本もそそり立っていた。
「こんな、立派な場所だったとは・・」
じいちゃんと颯太は、一礼した。
今更ながら、じいちゃんは気が付いた。
「お供え物、何も持ってこなかった・・」
「また来ようよ」
「そうだな」
「ねえこれすごいよ!」
颯太が、目をキラキラさせて地面を指さす。
巨木の根が、まるで大蛇の這うが如く、地面から幾筋も顔を出してのたくっていた。
「すごー!」
颯太は、しゃがみ込んで、その根を宝物の様にさすりさすりする。
「颯太、先に龍神様に挨拶しようか」
「うん!」
「颯太、小銭持ってるか?」
「持ってるよ!」
二人はお賽銭をして、礼をして拍をしてまた礼をした。
顔を上げた颯太は、随分と、すっきりとした顔をしていた。
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