1.雨

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1.雨

 夏休みも半分終わったころ、全国的に雨の日が続いていた。    ある日、小学二年の颯太は、近所で独り暮らしをしているじいちゃんの所に遊びに行った。といっても颯太は夏休みのほぼ毎日、じいちゃんの所に行っていた。 「颯太、雨大丈夫だったか?」 「うん、粒ちっちゃいよ」  颯太は、トリケラトプスやティラノサウルスなどの人気恐竜とその骨格が描かれた透明な傘を大事そうに畳むと、青いつやつやした長靴を脱いで上がった。  じいちゃん家は昔の家をリフォームしていて、玄関を上がるとすぐキッチンとリビングだった。颯太は大きなテレビが置いてあるリビングのこたつ兼テーブルの前に置かれた座布団の上に勢いよく座った。颯太は、じいちゃんの畑に行くのも、まずここに座って、お話をしてから出て行く。一人っ子の颯太はじいちゃんとお話するのが楽しい。 「ずっと雨だね」 「ずっと雨だな」  じいちゃんは、キッチンの冷蔵庫を開け、颯太にオレンジジュースを入れてくれた。  じいちゃんはカルピスを入れて自分の前に置いた。  じいちゃんは、カルピスが好きだ。夏場は良く飲んでいる。あまり飲むと颯太の母さんに怒られるので、言い訳の様に普通より氷と水を多めに入れて飲んでいる。ぼちぼち畑仕事をしているじいちゃんにとっては、スポーツドリンク代わりに丁度いい。  颯太は、ちょっとだけ照れくさそうにオレンジジュースを飲んだ。そのカルピスは、じいちゃんの誕生日に颯太がお小遣いでプレゼントしたものだった。       恐竜の傘と長靴はじいちゃんが買ってくれたものだった。  じいちゃんは70代半ば。短い髪に白髪が混ざっている。颯太の父さんと同じで背が高く、少しだけ腰が曲がっている。ちなみに颯太の母さんは小柄だ。 「このへんは大丈夫だけど、雨の多いとこは大変だなあ」 じいちゃんが、不安げに言った。 「ねえ、雨止められないの?」 「雨は、う~ん・・・大昔は龍神様にお願いしてたけどな」 「りゅうじんさま?」 「雨の神様だよ。昔の人は、日照りが続くと、雨を降らせてください、雨が続くと、雨を止めて下さいって、龍神様にお願いしてたんだよ」  颯太は目を丸くする。 「それで止まるの?」 「さあなあ。そういえば・・この町にも龍神様を祭ったとこがあったな」 「りゅうじん様いるの?!」 「そんな大きな神社じゃないらしいけどなあ。公園に・・。ほら、花見の時によく行くだろ。あそこの公園の奥の森の中にあるって聞いたぞ」 「ねえ、今から行こうよ!」 「龍神様のとこにか?」 「うん!お願いしに行こうよ!」  じいちゃんは、リビングから窓の外を見た。雨は小降りだ。孫の純粋な願いを叶えてやりたいとも思う。 「よし、じいちゃんの軽トラで行くか!」 「うん!」
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