元夫の戦利品

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元夫の戦利品

「ねえママ? シュクララさん可愛かったね! ちょっと変態さんだけど、パパになってほしいなぁ!」  アルヴァロードと共にお屋敷に帰ってきたウルルフェデーラは、はしゃぎっ放し。声を弾ませ「どうするの? どうするの?」としきりに母親の意向を確認しようと落ち着きなく話し続けていた。しかし……。 「ウルルフェデーラ、勘違いしたまま盛り上がるのは、およしなさい。あの男はパパになれるような頼もしい人ではないのよ」  元夫ガグロバルを引き合いに出して考えているせいか、アルヴァロード自身はシュクララとの再婚には乗り気ではない様子で、ドラゴンの額から採れたルビーの指輪を指にはめ直していた。ガグロバルが結婚指輪にと戦地で手に入れてきてくれたものなので、常に身につけていたいけれど、再婚相手候補のシュクララが来ていたので、悪戯に角を立てることもないだろうと考え、外しておいたのだった。  ウルルフェデーラも、その指輪の意味についてはよく分かっていた。しかし、この子はシュクララにはそれ以上に幸せの兆しが出ていることを感じ取ってもいた。駄々っ子のような振りをして、甘えた声で抗議する。 「えぇ〜? でも、優しいもん! ママのこと溺愛してるもん!」  そんな娘を宥めて寝かしつけながら、アルヴァロードは決心が揺らいでしまい、祈るような気持ちで一点を見つめていた。 「あぁ、ガグロバル……。わたくしは一体どうしたら良いのでしょうか? この子の幸せのために、ともすれば娘の恋人を奪い兼ねない美貌の父親候補など、遠ざけたほうが賢い選択というものではなくって?」  そのとき、ドラゴンのルビーの指輪が、光源でもあるかのように、眩しいほど明るく光り輝いた。 「まあ! ガグロバルから贈っていただいた、ドラゴンの額から採ったルビーの指輪が。光っていますわ! これは一体何ですの? 今までこんなことはありませんでしたから、てっきり魔力の消えた死にかけのドラゴンから零れ落ちた後に採った宝石かと思っていましたわ。けれどこれは……魔法石ですわね? ドラゴンを生け捕りにして、魔力を保ったまま額の宝石を抉りとった場合に、それは魔法石となり、特別な力を発現することがあるということでしたわ。それで、この光は……? あら? 何だか、急に眠くなってきたような気がしますわ」  アルヴァロードは、トロンとした目になったかと思うと、すぐに横になってしまい、規則正しい控えめな寝息を立てて、ぐっすり眠ってしまった。  そして、彼女が見ている夢の中では、ガグロバルがアルヴァロードをしっかりと抱き締め、変わらぬ愛を伝えていたが……、そっと彼女の体を離し、2人の結婚生活を写し取ったアルバムのページを丁寧に捲って、これまでを振り返った後に「これはもう心の奥に閉じ込めておくんだ。いいね」と念を押し、暖炉の炎にくべて燃やしてしまった。  それと連動するかのように、アルヴァロードの家に保管されていたアルバ厶も灰と化し、ガグロバルが彼女のために危険な戦場でドラゴンの額から採ってきたルビーの指輪も、ボンッと爆発して、粉々に割れてしまったのだった。
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