魔術王の弱点

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魔術王の弱点

「なぁ、ガグロバルよ。俺は一体、何のために魔術を極めたと思う。お前のように勇敢でもなく、愛する女も居ない俺だ。どうしてかと聞かれたら、こう答える他ない。弱き者のままでいるのが怖かったからだ。しかし、最強の魔術王になるのが、強くなるためだなんて、馬鹿馬鹿しい。強くなって何をするかが大事なんじゃないのか? なぜ俺は、孤独に魔法の杖を振り続けているのだ?」  魔術王クラレフィリオ=バズカリウスは、虚しさに押しつぶされそうになりながら、それでも魔術の腕に磨きをかけ続けていた。沢山の者の望みを叶え、不可能を可能にしてきた彼だが、自分自身は魔術で実現したい夢や、欲しいものなどが、何度思いを巡らせても、分からないままだった。 「もしも俺が、本当に欲しいものを見つけたら、そのときは」  スゥッと息を吸い、ゆっくり吐き出して、クラレフィリオは決意を口にした。 「それと引き換えに、この余りある魔力を差し出しても良い」  そこまでハッキリと言葉にしてしまう自分自身の空っぽさに、怯えの感情が大きくなったためか、手の震えが激しくなり、杖を取り落としてしまう。 「ああ、俺は、何が欲しいと言うのだろう。自分で手に入れたものさえ、誇りに思えないのならば。いつか出会う、降って湧いたような幸せを有り難がっても、俺は小物のままなのだ。だからと言って……本当に強くなるために必要なものなど、俺には分からない」  彼の目から溢れ落ちた涙が、目視できる人もいないほど瞬時に乾いたけれど確かに頬を伝いかけたことを、クラレフィリオの他には、ただ神のみが知っていた。 「ククッ。ハハハハ。魔術王の弱点が、今更何も欲していない諦念とそれを超えて来る何かへの憧れにあるなどとは、きっと誰も気づいておらぬだろうな。我が事ながら、なかなか面白い……」  だんだんと笑いが溢れてきた魔術王ではあったが、その言葉は、どこか悲しく響いた。
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