パパ候補とママ候補

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パパ候補とママ候補

「シュクララ=メルヨルデ、何のおつもりですの? 見るからに可愛らしいけれど……。  そのお姿、前の奥様と2人で飼っていたクリオネと買ったばかりのハートクッションと白いウェディングドレスをフュージョンしてコスチュームにしたのよね? 確かにとても似合っていますわ。  けれど、わたくしアルヴァロード=ヤタナクーニャには、世界一可愛いと胸を張って言える、大切な娘がありましてよ。  たとえ、あなたの、そのおふざけのような見た目に魅力を感じていたとしても、元夫ガグロバル=ヤタナクーニャへの愛にかけて、再婚相手候補であるあなたが娘より可愛いだなんて、認めるわけにはいきませんの!」  アルヴァロードは、シャープな、薄づきの肉の下の細い骨の形が容易に想像できる美しい下顎をやや上に突き出しながら、真紅の瞳に怒りを滲ませて目を釣り上げつつも伏せ目がちな睫毛で追い払うかのようにツンと軽蔑した表情をして、シュクララを見下ろした。  そんな彼女を嘲笑うかのように、シュクララがフュージョンに使った魔法の壺からは、異様なほど甘い切ない香りが立ち上っている。アルヴァロードは溜息をつき、自分の金色の巻き髪をクルクルと弄んだ。気に入らないのだ。  女の子顔負けの美貌を持つ彼は、アルヴァロードとの再婚のために、とにかく可愛い自分を見せ、気に入ってほしいと考えていた。だから数ある素材の中からクリオネとハートクッションとウェディングドレスを選んで壺の中で混ぜ合わせ、自分史上、最高に可愛いファッションを生み出して、それに身を包んでいた。さらさらストレートの銀髪をくちばしピンで無造作にまとめ、水色の瞳でキュルンと媚を売っている。  だからこそアルヴァロードの癇に障ってしまい、再婚の話が難航しているのだが、シュクララはそんなことは気にも留めず、強情にも己の魅力は賞賛を集めるためにあるようなものだと主張した。 「ボクが可愛いのなら、褒めていただかないことには、納得できないな。せっかく、ボクの雪のように滑らかな頬を染めて恥じらう天使のような姿を披露する予定だったのに、堅物女教師みたいに反抗しちゃってサ。いいもんね。君が言わないなら、この散りゆく桜の花びらたちが、口々にボクにこう囁くだろう! 『素敵ね。可愛すぎて、一人だけのものにしておくのは、もったいないわ』。だからねアルヴァロード。君はとても幸運な女性で……」  しかし、そこに現れた、アルヴァロードと同じ真紅の瞳で、ココアブラウンのお下げ髪をチョコチョコ揺らしながら駆け寄る小さな女の子の登場によって、アルヴァロードが声を上げ、シュクララの言葉は遮られた。 「ウルルフェデーラ! 何てこと! ママが帰るまで、いい子でお留守番してなさいって言ったでしょう? こんな可愛い男を見たら、あなたのことだから、すぐに懐いてしまうに決まってるわ!」  そして、その女の子一一ウルルフェデーラという名の、アルヴァロードの娘は、シュクララを一目見るなり、満面の笑みを浮かべ、ピトッと音がしそうなほど密着して抱きついた。  これには、思い立ってから間も置かずにアルヴァロードの家の庭に押しかけて自慢しに来たシュクララも、呆れてしまい、元々丸い目をさらに真ん丸にした。 「ねえアルヴァロード、君は、ボクを貶したいのか高く買ってるのか、どっちなのかな?」 「はあ? どうでもいいじゃないの、うるさいわね! わたくしの娘より可愛い再婚相手候補など、こちょこちょの刑ですわっ!」  いつの間にかアルヴァロードの方から恋人同士がする形ばかりの刑罰を下し、図らずもシュクララとスキンシップしてしまった様子を見て、娘のウルルフェデーラは、嬉しそうにニコニコしていた。 「あぁ〜! ママ、新しいパパとイチャイチャしてるぅ!」  そんなふうに茶化されて、アルヴァロードとシュクララは、思いがけず2人ともが赤面してしまったのだった。
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