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「アフターピル飲んだんだけど、無知だからすぐ気持ち悪くなって吐いちゃってさ」
白日の下にいる相手は不自然なほど穏和な笑顔のまま固く真っ直ぐな黒髪の頭を黙って頷かせている。
だが、この冷静さなら恐らく話も簡単だろう。
「八月中に中絶すれば費用は七万」
安くはないがもう就職して親の遺産も多少入ったこいつになら出せない額ではないだろう。
相手は静かな笑顔のまま虚ろになった目でこちらを見下ろしている。
「俺、引っ越しで貯金全部使っちゃったから、出来ればお前に費用出して欲しいんだ」
そもそも相手が悪いはずなのに何故こちらが卑しく感じるのだろう。
グッとショルダーバッグの紐を握り締めて続けた。
「ダメなら、今日持ってきた同意書にサインしてくれるだけでいいよ」
それさえあれば、自分が手術予定の施設では受け付けてもらえる。
「金は親に話して立て替えてもらうことにするから」
十九歳のまだ勤め始めて四ヶ月の会社員はまるで裁量を越えた難題を突き付けられたように無表情になった。
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