第三十章:窓辺の母娘――再び陽子の視点

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 ハル君は既に働いており法律上は二人とも大人になったとはいえ、十九歳だの二十歳だの所詮子供が子供を産んだようなものだとは産むと決めた時から知っている。  まして美生子はまだ学生だ。お腹に宿った命を絶つのが忍びなかっただけで、本音ではまだやりたいことや希望の進路もあるだろう。  この前、新島さんの奥さんが暢哉(のぶや)君が付き合っている彼女と韓国に語学研修に行くと話していたし、宮澤さんとこの坊ちゃんも今は留学してニューヨークにいるそうだ。  美生子もこうでなければ中国のどこかに行っていたかもしれない。  昔からこの子はバレエを好きで自分から習っているかと思うと男の子みたいな格好や持ち物にしたり、上京してからも急に髪を刈り上げたように短くしたり、親の目にも妙なこだわりが強かった。  それをハル君が近くで理解して支えてくれたのだろうが、そこは二人ともやはり若過ぎたから、こんな早い結婚と若過ぎる父母になったのだろう。  ハル君はああいう形で育った子だし、両親共にもう亡いから、自分の家庭を早く持ちたかったのかもしれないが。  いざとなったら赤ちゃんはこちらで引き取って、もう一度私たちで子育てしよう。  今朝出てくる前も、夫とはそんな話をした。  ふっと傍らで吹き出す気配がした。 「光が一番早生まれになっちゃったなあ」  ベッドに置いたピンク色のU字型クッションに腰掛けた、水色の入院着の肩にまで伸びた髪を垂らした美生子は窓の向こうで満開を迎えたソメイヨシノの風景に見入っているようだ。
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