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第一章:産院の窓――陽子《ようこ》の視点
「うちの方が一日遅いはずだったのにねえ」
乳臭い甘い匂いが漂う中、ベビーコットの中の赤ちゃんは目を閉じたままニンマリと小さな口の両端を上げる。
また笑ってくれた。
思わずこちらの顔も綻ぶのを感じる。
お乳をたっぷり飲んで寝入ると、この子はよくこんな顔をしてくれるのだ。
まだ生まれて五日目の、名前も届けていない、私の赤ちゃん。
「美生子ちゃんはママとパパに早く会いたかったんだよ」
向かいの彼女は苦笑いして自分の赤ちゃんに哺乳瓶を咥えさせつつ、もう既に決まったかのように私の赤ちゃんの名を口にする。
お腹の子がどうやら女の子らしいと分かってから、私と夫であれこれ候補を出して決定した名は「美生子」。
もし生まれてきて男の子だったら「美生」としようということになった。
奇しくも同じ時期に妊娠した幼なじみの親友の彼女にもそうした経緯は既に話してある。
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