第十四章:雨の日に還《かえ》る――陽希十四歳

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***** 「ちょうど私がスーパーに行こうとして歩いている時に『ヨウ!』って呼ぶ声がして、振り向いたらキヨが車道を横切って走ってくるところだったの。そこに車が来て、あっという間だった」 「そうですか」  嘘のように穏やかな死に顔だ。何だかほのかに笑っているようにすら見える。生きている時は怨霊みたいだったのに。 「最後にキヨが笑って『ヨウ、私……』って言いかけて、こっちが『何?』って聞き返したらそのまま事切れた」 「そう」  お母さんは最後に陽子おばさんに会って笑っていたのだ。  だからこんなに幸せそうな死に顔なんだ。  警察署で保管されていた所持品の内、母親が差していた本人の若草色の傘は綺麗なままだ。  だが、手に持っていた俺の黒い傘は――恐らく車にぶつかったのだろう――骨がグシャグシャに折れて破けた生地から飛び出している。  これが人間なら惨死体だ。  ふと柔らかで温かな手が背を擦った。 「お母さんは最後までハルくんのことを思って逝ったんだよ」  嘘だ。  お母さんの視野に最初から俺はいなかった。最後まで我が子として受け入れて愛する気持ちなどなかった。 ――お前なんか死ね! 地獄に堕ちろ!  耳をつんざくような罵声が頭の中に鳴り響いて体が震える。  結局はあれがたった一人の息子に残した最後の言葉になった。  何故(なぜ)、先にあっけなく死ぬのがお母さんで、取り残されるのが俺なんだ。  見詰める内に潰れた傘の残骸がジワリと熱く滲んだ。
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