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第十五章:女と男の間――美生子十四歳の視点
「あれがハルのお父さん?」
線香の匂いが漂う中、答えを知りつつも喪服の母親に耳打ちせずにいられない。
「そうだよ」
短く答えたお母さんの眉根に皺を寄せた顔とくぐもった声には“不愉快だからいちいち話題にするな”という苛立ちと非難が滲んでいた。
四十三歳で亡くなった清海おばさんの葬式に現れた元夫、つまり陽希の実の父親は、固く真っ直ぐな髪は殆ど真っ白で、皺の刻まれた小さな顔に銀縁眼鏡を描けた、中二の陽希のお父さんというよりお祖父さんに相応しい風貌をしていた。
むろん、陽希の本当のお祖父さん――こちらは一人娘を亡くしたショックからか喪服を着た脱け殻のように虚ろな目付きで葬儀にやってくる客に機械的に頭を下げていた――と比べれば仕立ての良い喪服を着て背筋をきっちり伸ばした姿勢など十分に若々しくはあったが。
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