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祭壇に飾られた清海おばさんの写真はそんな父子を含めた弔問客全員を見下ろしている。
あれはいつ撮られたものなのだろう?
死ぬ頃より明らかにずっと若いおばさん(という呼び方もそぐわなく感じるほど若々しい)はまるで解き放たれたように晴れやかに微笑んでいる。
自分の知る清海おばさんははっきり言って気難しげな、息子のハルに対してもどこか寄せ付けない底冷たさすら見える人であった。
それが母親になる前――としか思えないほど写真の面影は若い――はこんな笑顔を見せる人だったのだ。
小さな頃から日常的に顔を合わせてきた相手だったけれど、改めて思い出すと、自分はこの人について何を知っていたのだろう。敢えて知ろうとすらしてこなかった。
そう思い至ると、白い夏物のセーラー服を着て弔問客に紛れ込んでいる自分が酷く白々しく感じられてきた。
線香の匂いが思い出したように鼻先に蘇って胸を締め付けた。
俺なんか普段は信心深い人間でもないのに何で神妙そうな顔して座ってんだろう。
こちらの思いをよそにマイクを通した声が響いてくる。
「お集まりいただいた皆さん、どうもありがとうございます」
生きた人間たちは粛々と自分たちのセレモニーを消化していくのだ。
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