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ピシリと辺りの空気が凍り付いた。
さっと隣から線香の匂いが駆け抜ける。
「ハル」
呼び掛けたまま茫然と立ち止まっているマサキ君を尻目に足が勝手に駆け出した。
お下げのシノちゃんを抱きかかえて戻ってきた伯父さんと入れ替わる格好で外に出る。
線香の匂いがそこはかとなく漂う屋内から外に出ると、ムアッと一気に蒸し暑い空気に包まれ、カッと八月も末の陽射しが照り付けた。
乾き切って加熱したアスファルトの臭気が足元から立ち上ってくる。
陽希の白いシャツの背は残像を引きながら駆けていく。
そうだ、こんな暑苦しい上に動きづらい制服を着ているけれど、今日はまだ夏休みだった。
滲み出た汗で首筋に纏わり付いた髪の毛を払いのけ、ごわついたプリーツスカートを腿で蹴り上げながら今更のように思い出す。
清海おばさんは台風の吹き荒れる日に亡くなって、こんな暑い晴れ空の日に葬られるのだ。
そして、もうすぐ骨と灰にされてしまう。
死に化粧を施されて仄かに微笑んで見える白蝋じみた死に顔、まだ若い遺影の晴れやかな笑顔、そして、子供の自分がよく目にした、笑っていてもどこか醒めた切れ長い瞳の蒼白い面が次々浮かんで消える。
――これ、男の子のだよ?
――やっぱり、女の子の方が着物もお洋服も華やかだから。
おばさんが本当に欲しかったのは凛々しく刀を構える息子でも華やかに着飾らせた娘でもなかったように思えるのは何故だろう。
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