第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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「ごめんなさい」  掴みかかられる前にがくりと両膝をついて首を締め上げられないように両手を顎の下にかざす。 「毎晩、他の人に会ってるんだと思うと辛かったから」  ボカスカ殴る蹴るされるか、首を締め上げられる場面が浮かんできて涙がボロボロこぼれてくる。 「あなたはもう私とは別れたいんだろうと思うとやりきれなかったから」  相手は青ざめた顔のまま、しかし、まだ険しい眼差しで卑屈な態勢を取ったこちらを見下ろしている。 「本当にごめんなさい」  何故、自分が謝らせられるのか。  どこか冷静な頭で思いつつ、(ひたい)を床に着ける。 「もう二度と探ったりしないから」  破廉恥な不貞行為を働いているのは彼の方なのに。  それがばれて逆ギレしている二重に暴虐な態度なのに。  法律に照らし合わせれば非があるとしてお金を払わなくてはいけないのはこちらではなく相手の方なのに。  しかし、二人きりの密室で怒り狂った男にそんな正論を説いても女が身を守る何の役にも立たないのだ。
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