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ジリジリとハーフアップの結び目の辺りに晩夏の陽射しが照り付ける。
視野の中で白紙のノートの頁じみた陽希の制服の背が立ち止まる。
「ハル」
耳に響く自分の声は妙にくぐもって陰鬱に聞こえた。
これじゃ、駄目だ。舌打ちしたくなるのを堪える。
もっと、余裕のある温かな声でなければ余計にハルは気が滅入ってしまう。
相手はゆっくりと表情のない顔を振り向けた。そんな風に動作が加わると、中学生にしては広くなった肩や太く長い頸が目立つ。
それを目にするこちらはいっそう胸の内が暗くなった。
こいつは当たり前に男の体として育っているのに、俺は女の体だ。
ザワザワと熱を孕んだ風が木々の枝を揺らす音がして、緑と湿った土の匂いが二人の間に立ち込めた。
「まあ、父親なんて言ったってずっと会ったこともない人だし、始めから期待はしてなかったよ」
まだ緑の深い葉の繁る木の下で、頬が一へら削げて何だか自分より四、五歳くらい上に見えるハルは表情の消えた面持ちのまま乾いた声で続ける。
「お母さんはお父さんの話なんか一回もしなかったし」
まるで会ったことのない人について話すようにお母さん、お父さんと語る。
俺にとってのお父さんお母さんとハルにとっての清海おばさんやあの爺さんは端から位置付けが違うのだ。
前々から知っていたはずのことだが、それが今になって自分たちの間に突如として度しがたい溝として横たわったように思えた。
ざわめく風の中で、ふっと自分を見下ろす蒼白い顔がどこか諦めた風に苦笑いする。
「俺、あの爺さんに似てるかな?」
固く真っ直ぐな髪、中高い小さな顔、腰高い長身。
否定したくてもこれは父親からの遺伝だ。
だが、この切れの長い、二重瞼の切れ込みが深過ぎて疲れた時にはうっすら三重になる、いつもどこか寂しげな目は清海おばさん譲りだ。
「全っ然」
セーラー服の半袖から抜き出た腕を自分の顔の前で大きく振ると、相手は寂しい目の奥を潤ませて削げた頬を崩して笑った。
実際のところ、母親に似ていると言われてもこいつにはまた別な苦しみがあるのではないか。
おぼろげにそう察せられるのが、それに対して何も出来ない自分がいかにも非力に思えた。
「戻ろっか」
問い掛けで選択の余地を残す形で切り出す。
「戻ろう」
相手から歩き出した。
葬儀所の入り口ではいつの間に来たのかお母さんが立っていた。
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