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「あの旦那さんも今日は来てたのかい」
お父さんは焼き鳥を摘まみながら――葬儀の後、疲れ切った様子のお母さんは今日は夕飯を作る気力もないのかスーパーで弁当や惣菜を買って帰宅した――やや意外そうに答えた。
「多分、ハル君の今後の相談もあるから呼ばれたんでしょうね」
お母さんはクーラーを点けるために窓も締め切った家の中なのにまるで聞き付けられるのを恐れるように抑えた声で語ると、冷ややかな笑いを浮かべた。
「髪も真っ白で最初どこのお爺さんかと思ったわ」
「まだ、そんな年じゃないはずだけどな」
お父さんの方は缶ビールを流し込みながら曖昧な記憶を探る顔つきになる。
「キヨは一つ上だと言ってた」
キヨ、と口にするお母さんの目にまた痛ましいものが走った。
「俺もあの人が清海さんの家に挨拶に来た時に一回しか会ったことないけど、昔は男前だったじゃないか」
少し酔いの回り始めたお父さんは陽希の実父の取り澄ました表情や仕草を真似る。
やめろよ。
喉元まで言葉が出掛かった所でお母さんの刺すような声が走った。
「本人もそう思ってたでしょうね」
普段着に戻ってもまだ微かに線香の匂いのするお母さんは苦々しく付け加える。
「ああいう人は早く老けるの」
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