第十六章:なりたいものになれる日――陽希十五歳の視点

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*****  これはやっぱり場違いだった。  パーティ会場(といっても美生子の同級生宅の客間だが)にはバニーガール風のヘアバンドを着けたメイドやもののけ姫、ティンカーベルとペリウィンクル(この二人は似通った顔と体型からして実際にも姉妹だろうと知れた)等、思い思いの仮装をした女の子たちで賑わっている。  ここでは普段着のジャケットにジーンズを穿いた自分こそがTPOにそぐわないのだ。 「ミオ、その服はどこで買ったの?」  レース貼りの羽を背中に着けた姉妹の内、ポニーテールに緑のワンピースを着たティンカーベルの方が尋ねた。 「ネットで探して買った。そっちは?」 「うちは二人で布地は買ったけど、後はほとんどマイが作ったよ」 「凄いね!」 「ユイちゃんの着たいティンクの衣装はネットにもあったけど、私の着たいペリウィンクルのは無かったからお揃いで両方作ろうと思ったの」  今度は垂らした髪をムースで固めて水色のスパッツを穿いた方が語った。  どうやらティンカーベルが「ユイちゃん」で、ペリウィンクルが「マイちゃん」のようだが、初見で改めて自己紹介し合う空気でもないので、本名なのに漠然とした仮名のように聞こえる。  美生子以外は全員とも初めて会った、互いに名前すら曖昧な、今日別れたらまたちょくちょく顔を合わせる機会があるかも怪しい子たちである。  むろん、どの子の容姿も雰囲気も決して悪くはない。  だが、「この子とは何とか連絡を取り合って一対一で親しくなりたい」と思うほど惹かれる顔は今一つ見出だせないのだった。  恐らくそれは女の子たちから見た自分も同じだろう。  大体、俺だけつまんない普段の服装で来てる空気の読めない奴だし。  そう思うと、漆喰や洗剤の混じった他家の特有の匂いを吸い込む胸の奥が微かに痛んで塞ぐのを感じた。
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