第十六章:なりたいものになれる日――陽希十五歳の視点

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「ボクはお裁縫苦手だから一から作るなんて無理だなあ」  軍服の美生子は口調もドラマに出てくる川島芳子をなぞって応じる。  もしかして、男言葉を使いやすいように、むしろ似つかわしく見えるようにこの仮装にしたのだろうか。  漠然と察してはいたが、それが確信に変わりつつあるのを感じた。 「あたしは漠然とメイドさんの服にしたからきっちりした有名キャラじゃないなあ」  照れ笑いしつつ、バニー風ヘアバンドのメイドは二リットルペットボトルの紅茶を開けて近くの紙コップに注ぎながら尋ねる。  レモンを仄かに含んだ甘い香りがうっすら広がってこちらまで届いた。 「他にも飲む人いる?」 「こっちにもちょうだい」  ソファに腰掛けてスマートフォンを覗いていたもののけ姫がそれをしおに立ち上がって女の子の輪に入った。 「うちもペインティングだけは自分でやったけど後は買わないと無理だった」  カップの紅茶を啜りながらもののけ姫は苦笑いして付け加えた。 「今、LINEが来たんだけど、後一人はちょっと遅れるみたいだから先にお茶やお菓子を摘まんで待ってよう」 「じゃ、ボクはこの麦茶貰うよ」  制帽の美生子は男装の王女の口調で告げると、華奢な軍服の肩を振り向けた。 「ハルも飲む?」  そこで一斉に思い思いの仮装をした少女たちが自分に眼差しを向けた。 「ああ」  急に自分がお姫様たちのパーティに付き添いで来た従者か何かのように思えた。 「お願いします」
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