第十六章:なりたいものになれる日――陽希十五歳の視点

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***** 「ミオとは産まれた病院まで一緒だったんだ?」  双子の妖精に扮した姉妹は揃って紙コップを手にしたまま良く似た顔に同時に驚きの表情を浮かべた。 「お母さん同士も幼馴染みなんで」  俺の方のお母さんはもういないけれど、そんな重たい話まではここでする必要はない。 「何か漫画とかに出てきそうな話だね」  バニー風ヘアバンドのメイドは微かに飾りの長い耳を揺らしながら笑って付け加えた。 「ロマンチック」 「そんなんじゃないよ」  先に笑い飛ばしたのは軍服姿の美生子だった。 「えー、幼馴染みの恋人なんて漫画やドラマの定番じゃない?」  フェイクの兎の耳を頭に立てたメイド少女はまるで自ら注いで飲んだ紅茶で酔ったように頬をうっすら染めて問い返す。  この人はいわゆる恋バナ好きなんだろうな。  どこにも意地悪な所などない、むしろ無邪気な笑いを浮かべた相手を眺めながらそんな察しを付ける。  他人の境遇を羨んでいるようで、実際のところは頭の中にある恋愛ドラマや漫画のイメージを当てはめて本人が楽しんでいるのだ。  まあまあ可愛いし人懐こい感じだから本人にももう彼氏がいるのかもしれない。  多分、この人は気の合う友達と楽しく遊ぶ延長で手近な受け入れてくれる相手と当たり前に恋愛して、周りにも疑問なくそんな前提で接していくんだろうな。  いや、それが素直で健全な成長をした人なんだ。  ミオとは色気のない兄弟のような間柄のフリをして、寝る前にミオに似た女の人が出ているポルノ動画をこっそり観ている俺の方がよほどひねくれている上に、陰湿で嫌らしい。 ――ピンポーン。  客間に玄関からの呼び出し音が響き渡った。 「来たよ」  主催者のもののけ姫は皆に告げると、仮装の毛皮の背を見せて小走りに出ていく。
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