第十六章:なりたいものになれる日――陽希十五歳の視点

9/12
前へ
/319ページ
次へ
 ふと視線を感じて振り向くと、ティンカーベルとペリウィンクルに扮した姉妹が揃ってポッキーを齧りながら似通った顔に苦笑を浮かべてこちらを眺めていた。  カッと顔が熱くなる。  どちらがユイちゃんでどちらがマイちゃんか分からないが、俺がミオに望みのない片想いをして目で追っていることを今日会ったばかりのこの二人にも気取(けど)られたようだ。  グイと手にした残りの麦茶を飲み干したところで不意にまた別な方から声が飛んだ。 「笹川君てバレエやってるんだよね」  おっとりした口調だ。 「ああ……」  虚を突かれて曖昧な声を出してから付け加える。 「今年はもう受験なんで辞めました」  本当のところはミオが辞めて張り合いが無くなったのだ。 「バレエやってたなんて言っても、俺は教室でも微妙な方だったんで」  こちらを鷹揚に眺める琥珀じみた色黒の顔を見詰め返しながら、ふと教室でいつも前の方で踊っていたサーシャのミルクじみた肌に金髪碧眼の面影が頭を()ぎる。 「イケメン」とか「美少年」というのはサーシャのような人を言うのだ。  大河先輩は実際のところ造作としてはそこまで整ってはいない。  ただ、背が高くて見栄えがするのと、勉強も運動も出来てその面でも目を引くのと、何よりも自信や余裕のある態度が女の子からも好かれるのだろう。  自分にはそんな(ひろ)さはない。そう思い至ると、いつものジャケットを着た自分がいよいよ場違いな上にみすぼらしく感じられてくる。 「そうなの?」  君はもっと出来るだろうという調子で仮装のアシタカは穏やかに笑って続ける。 「俺のイトコでカナちゃんという子がいるんだけど、バレエ教室にいる笹川君のことをかっこいい、かっこいいと会う度に言うんだよ」 「カナちゃん、ですか?」  バレエ教室で一緒だった同世代の女の子たちを思い返しても覚えのない名だ。 「今、小学五年生だから教室ではそんなに関わりなかったかな」  相手は飽くまでのびやかな調子で語った。 「女の子は小さくてもしっかり見てるから敵わないよ」
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加