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十月も末の夕暮れは、空は晴れていてジャケットを着込んだ背中は十分温かくてもまだ手袋を嵌めていない手に触れる空気は冷えて乾いている。
明日からはもう十一月だ。暦の上ではまだ秋の括りに入れられてはいても体に感じる空気は冬に片足を突っ込んでいる。
「ハルが持ってきてくれたクッキー、売れ行き良かったね」
制帽で目を影にした美生子の声は最初は上ずったように明るい調子だが、どんどん寂しさが滲み出す。
「あっという間に無くなっちゃった」
お前が本当に話したいのはその事じゃないだろう。そこまで喉元に込み上げた所で仮装のカーキ色の軍服の背中がぽつりと呟いた。
「サナちゃん、やっぱり大河君と付き合ってたんだなあ」
肉薄の華奢な肩越しに、行手の街路沿いに植えられた、たわわに実った柿の木が見える。
既に熟した実は夕暮れの陽を浴びていっそう朱く照り映える。
いかにもおいしそうだ、でも、渋柿かもなと思いつつ、街路樹という皆の物のようで誰の物でもない木に実っているから一度も手を出して齧ったことはない。
「俺と二人で喋っててもちょくちょく大河君の名前が出てくるからそんな気はしてたけど」
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