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「ありがとう」
自分より頭一つ分背の低い美生子は俯いたまま、しかし、確かな声で答えた。
ホッとする一方で、俺の方の本心は隠し続けなければいけないのだ、二人の間で口にすれば今の繋がりに亀裂が入ってしまうものなのだと改めて胸が締め付けられる。
「帰ろう」
たった今、被せた自分のジャケットの上から相手の背中に触れて押す格好で再び足を前に進め出す。
後ものの数分も歩けば、ミオの家だ。
このまま着かなければいいのに。ずっと二人で並んで歩いて行ければいいのに。
眩しく顔を照らし出す夕陽が次第に宵の藍に浸されていくのを感じながら、かぼそい枝に熟した重たい実を着けた樹の下を進んでいく。
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