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正門から新たに入る人がまだいる一方で、少しずつ出て来る顔もある。
「ちょっと、どっかで話そうか」
俯いて声を殺して泣いているセーラー服の背を同じセーラー服を着たもう一人の女の子が擦りながら通り過ぎていく。
あれは友達同士で合否が分かれたのだ。受かった方も喜ぶに喜べないだろう。
見ず知らずの自分からジロジロ見られるのもあの子たちには嫌だろうと知りつつ、何とはなしに二人が安全に帰るのを見届けたい気持ちで目で追う。
「ミオ」
ざわめきの中から自分を呼ぶ声が耳に飛び込んだ。
「受かった」
いつの間にか正門から他の受験生たちに混じって笑顔で出て来ていた黒い学ラン姿のハルは告げる。
「おめでとう」
喜びと安堵が半ばする気持ちで俺は応えた。
「良かったな」
ハルの成績とこの学校の偏差値からすれば合格する可能性の方が最初から高かったわけだが、確定した結果を目にして想像以上に安心している自分に気付く。
ただ合格発表についてきただけで試験自体に関知していなくても、落ちていたら責任の一端があるように思えてしまう。
ふんわりした梅の香りが通り過ぎていく。この匂いが苦い記憶と結び付かなくて良かった。アスファルトの地面に入り混じるようにして散らばった白と紅の丸い小さな花びらを見やりながら頭の片隅でそんなことを思う。
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