第十七章:紅白の庭――美生子十五歳の視点

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 何とはなしに相手の靴より二周りほども小さな自分のスニーカーの爪先に目を落として足を進めていると、隣から打って変わって上擦った声がした。 「ま、せっかく共学だし、頑張って彼女でも作ろうかな」  振り向くと、相手はどこか挑むようにポニーテールに結って白いハイネックセーターの首をダウンコートの襟元から突き出した自分を見下ろしている。 「高校デビューって言うだろ」 「ああ」  言葉を濁してから、そういえばハルが自分の好きな子の話をしたことはないと今更ながら思い当たる。  いつも俺が舞い上がって好きな女の子の話をするのを聞くだけだった。  というより、こっちがこいつの気持ちなどお構いなしに聞かせていたんだろう。  本当は同じ女の子を好きだった時期もあったのかもしれないと思い至って申し訳ないというより空恐ろしくなった。
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