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「笹川はいっつもきちんとしたおかずの弁当で羨ましいよ」
牛乳のストローをくわえた相手は何だか寂しい笑いを浮かべて目を落としている。
「俺も夕べの残りを適当に詰めてくるだけだよ」
「自分で弁当作ってんだ」
杉浦は細い目の幅を一気に広くする――目が細いので驚いて見開いても「目を丸くする」というより「幅が少し広くなる」が相応しい。
「いや、ご飯やおかずはお祖母ちゃんが作ったやつだけど」
周囲でそれぞれグループを作って食べていたクラスメイトたちの視線が何となくこちらに向けられている気配を感じる。
今だ。
出来るだけどうということのない表情と声で切り出す。
「俺んち、もうお祖母ちゃんと二人だけだし、お祖母ちゃんも仕事で早く出ること多いから」
向かいの杉浦と四方からの眼差しが微かに強張るのが分かった。
ほら、やっぱりこういう空気になるんだ。どこか醒めた目で眺めている自分を感じた。
「ごめんな」
杉浦は食べかけのアンパンを膝に持ったまま、どう続けるべきか迷う表情を一瞬見せてから低く付け加えた。
「知らなかった」
「いいんだよ」
気にしなくていいから、という風に笑って手をちょっと大げさなくらい振って見せる。
「俺みたいなうちはそんなに沢山ないから」
別に悪事を働いているわけではないが、単に少数派だからそうと知れると微妙な空気になる。
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