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「カノジョ要らないな」
杉浦は新たにアンパンを頬張りながらごく無邪気ないつもの笑顔で答えた。
「カノジョ?」
聞き返してから恋人という意味での「彼女」だと思い当たる。
「自分で弁当作れるから」
相手は何の疑いもない顔つきと口調で買ってきた牛乳のストローを吸っている。
「いや、彼女って弁当作る人じゃないし」
普通に返したつもりがちょうど周囲の会話の切れ目で――というより、まだ周りがそれとなくこちらを窺っていて――自分の声が埃っぽい中にそれぞれ持ち寄った昼食の匂いが入り混じる教室に響くのを感じた。
ふと、エプロンを着けた美生子がナプキンに包んだ弁当箱を笑顔で渡してくれる姿が浮かぶ。
自分たちが実際に付き合ってもミオがそんなことをする訳はないだろうし、家族であるお祖母ちゃんや他人でも大人である陽子おばさんが厚意で作ってくれるならまだしも同じ高校生の相手に毎朝食事を用意させる訳にはいかない。
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