第十九章:私とあなたのクリスマス――美生子十六歳の視点

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「恋人たちのクリスマス、か」  ぽつりと呟いたのは自分でなくハルの声だ。  もう完全に大人の男の声に変わってしまったと思いつつ振り向くと、相手は膝の上に組んだ自分の手に目を落としていた。  大きく節くれ立ったその手は少し離れて立つこちらの目にも赤く荒れていた。 「ハルの手、痛そうだね」  テーブルの隅にある赤い薔薇のロゴが入ったピンク色のパッケージのハンドクリーム――さっきお母さんが塗ってそのままそこに置いた――を取って差し出す。 「良かったらこれ付ける?」  相手は何だか表情を消した風な、どこか苛立ちを抑え込んだような顔つきでこちらを見上げた。 「俺も荒れやすいから付けてるけど良く効くよ」  薔薇の匂いなんて男には付けづらいかもしれないが、これは飽くまでアカギレを治す為の塗り薬だし。  頭の中で言い訳している自分を感じない訳ではないが、ハンドクリームくらいなら男も普通に使うものだという気もした
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