第十九章:私とあなたのクリスマス――美生子十六歳の視点

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「それ、うちのクラスの女の子も持ってるやつなんだけど」  こちらの手首を捉えるハルの大きな手が一気にじっと汗ばんだ。  それとも、自分の汗だろうか。フリースの奥の、ブラジャーに拘束されていない代わりに防護もされていない()のままの胸が騒ぐ。  相手は痛みをこらえるような面持ちでこちらを見下ろす。 「俺の前では無理して女のフリしなくていいんだよ?」  問い掛けというより「するな」という懇願に響いた。 “I just want you for my own more than you could ever know” 「そんなんじゃねえ」  敢えてぞんざいに答えてからそういう自分をわざとらしく感じて普通の口調で続ける。 「これ、俺のじゃなくてお母さんのだよ」  “俺”という一人称を聞いたところでピッとハルの蒼白い顔に異物が捩じ込まれたような痛みが走った。いつものことなのに。 「ミオ」 “Make my wish come true”  言い掛けたまま、こちらの手首を締め上げんばかりに掴んだ手がまたぬかるむように汗ばむ。 “All I want for Christmas is you, you baby”  歌姫の張り上げる風な声が一瞬沈黙した二人の間に響き渡った。 「嫌なら無理して付けなくていいよ」  痛いから放せ、と口には出来ないまま手首を引こうとするが相手は捉えて離さない。  こちらを見詰める切れ長い瞳に光る物が宿って揺れた。
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