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「今、うちからも持ってこうと思ってたんだけど」
お祖母ちゃんはうち用に買った八ツ橋の箱を開けながら語る。
しっとりしたお香の匂いが広がった。
これは京都の街全体にうっすら漂っていた香りだと湯気立つ緑茶を三つのマグカップに順繰りに注ぎながら思う。
この朱色のがお祖母ちゃん、クリーム色のが自分、そして白い来客用のがミオのだ。
「いや、うちもこれだけなんで」
美生子も持参した東京土産のミントグリーンのボール箱を開いた。
並んで詰められたチョコクッキーが顔を出す。
「あ」
皆で八つ橋を食べるから緑茶を淹れようとばかり考えてミオが持ってきたお菓子のことは想定していなかった。
「コーヒーとか紅茶の方が良かったかな」
チョコクッキーにはそちらの方が合っている。
「私は緑茶で大丈夫だけど」
私、とさりげなく使う美生子の栗色のポニーテールはクッキーの箱をテーブルの真ん中に動かす煽りを受けて微かに揺れた。
若竹色の大きめのシャツは襟元から抜き出た首の細さや頬や唇のピンク色を際立たせている。
事情を知らない人が見れば、というより内情を知る自分の目にすらむしろ女の子らしい姿に見えた。
「なら良かった」
お前は女なんだ。
そのまま姿通りの、俺以外の他人の前で振る舞う通りの女になってしまえ。
それは言えないまま、湯気の立ち上る白いカップを相手の前に置く。
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