第二十章:ここではないどこかで――陽希十七歳の視点

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***** 「京都でお寺参りしたりお土産買ったりした後、大阪のUSJに行ったんだよ」 ――デートだよ。  笑って腕を組んできた詩乃ちゃんの姿を思い出す。小学二年生になった再従妹はお気に入りらしい藤色のワンピースを着て貴海伯母さんに編んでもらったお提げ髪を垂らしていた。  雛人形じみたその面影が古いアルバムに載っている子供時代の貴海伯母さんや母親に似通っていることに何となく苦笑する一方で、ミオが小さな頃からこんな風だったら良かったのにといつものことながら胸が締め付けられたのだ。 「うちもディズニーリゾートに行ったよ」  八つ橋を摘んだ美生子は楽しそうに笑っている。その無邪気さが微かに憎かった。  と、思う内に相手の笑顔が笑顔のまま少し寂しくなって付け加える。 「まあ、ゴールデンウィークだから人の海だったけど、家族で旅行に行けるのは今回までだから」 ――大学、俺はとにかく入れるとこ行きたいなあ。  旅行中にホテルの隣のベッドに寝転んで呟いた雅希のやはり苦く寂しい笑い顔が蘇った。 ――だから京都のお寺ではとにかく合格祈願するよ。  一学年上の再従兄や幼なじみは高三で受験生なのだ。
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