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「美生子ちゃんはやっぱり東京の方の大学に行くの?」
朱色のマグカップを啜っていたお祖母ちゃんが訊ねる。
俺の聞きたいことを代わりに切り出してくれた。ホッとすると同時に次の答えを待つ胸が早打つ。
「入れたらそうしたいです」
一瞬、心臓が止まったような気がした。
視野の中の美生子は照れた風な笑顔で続ける。
「やっぱり東京に出たいかなって」
すぐ向かいに座っているのに鏡に映った虚像のように触れられない所にいる気がした。
「就職だって向こうの方があると思うし」
それはもう戻って来ないという意味なのか。手の中のマグカップが飲まれないまま熱くなる。
「まあ若い内はね」
ふとお祖母ちゃんを振り向くと痛ましい目で自分と幼なじみを見やる眼差しにぶつかった。
お祖母ちゃんは俺の気持ちを知っているのだ。敢えて言い出さないだけで多分ずっと前から。そこに今更気付いた自分が余計に愚鈍に思えて惨めになる。
「外に行って色々吸収した方がいいから」
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