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――この子と付き合ってるんだ。
他の女の子と肩を並べて道で偶然会った美生子に告げる場面が浮かんだ。
――そうなんだ。
想像の中の美生子は晴れやかに笑っている。
自分が別の高校に合格したと分かった時のように。
――じゃ。
何事もなかったように背を向けて遠ざかっていく美生子の後ろ姿が浮かんでくる。
体の線を覆い隠す若竹色の丈の長いTシャツの背中で栗色のポニーテールがゆらゆら揺れる様子まで。
それでおしまいだ。
胸の奥に寒々しい風が吹き抜ける。
まだ、現実に起きてもいない事態なのに。
――今まで気付かなかったけど、やっぱりハルが好き。
潤んだ目で告げに来た美生子を想像の中で抱き締める。
自分が期待しているのは結局、これなのだ。
空っぽの腕で自分の体を抱き締めながら、レースのカーテン越しに暮れていく空を見詰める。
いつまでこんな不毛な思いを抱えていなければならないのだろう。
彼女(という代名詞を使うのも相手には受け入れられないことだろう)が変わることはない、自分が変わるしかないのだから、もうこんな心など捨て去りたい。
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