第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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「俺もついてこっか」  向かいの陽希は真顔で言いかけてから冗談だと種明かしする風に吹き出した。 「俺も東京とか京都に行きたいよ」  何気ない調子で呟いてからハート形に似た苺の欠片を噛む顔が酸っぱくなるのは、多分、食べ物のせいだけではない。  ハルの再従兄の雅希君(自分には中学時代に清海おばさんのお葬式で一度会ったきりの相手でしかないし、それは向こうにとっても同じだろうが)も京都の私大に行くことになったそうだ。  両親の揃った、というより、人並みに稼ぐ父親と共に暮らしている自分たちには遠方に出て学ぶ選択肢が持てるのだ。  俺は頭が悪いし勉強も好きじゃないから、とどこか言い訳する風にこいつはよく語る。  しかし、今はお祖母ちゃんと二人で暮らすハルには地元を出て大学に通う選択肢が恐らく現実的にないらしいのはまだアルバイトもしたことのないこちらにも察せられることだ。 「まあ、東京もこれから住んでみれば色々危なくて大変だとは思うけどね」  こちらもどうということのない口調で返してから餡蜜の中で加速度的に柔らかく崩れやすくなっていくアイスクリームをまた一口掬う。  お前も来たきゃ東京に来いよ、とは言えない自分がいかにも無力で相手からの厚意を分捕るだけの人間に思えた。 ――ピン、ポン。  無言になった二人の間にどこかの席から呼び出しのベルが鳴る音が浮かび上がるように響いてくる。
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