第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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***** 「こっちだとまだ『サクラサク』じゃなくて『モモガサク』だね」  夕焼けの道路の脇に広がる一面の桃畑を見渡して陽希が呟いた。 「本当だ、今が満開だね」  三月末の柔らかな夕陽を浴びた木々の枝は艷やかな薄紅の花に覆われて、遠くまで薄紅色の霞がかかったように見える。  こちらの方がソメイヨシノよりはっきりしたピンクで自分は好きだ。  そこで「女の子の色、花」として押し付けられたものでなければピンク色や桃の花自体は好きなのだと改めて気付く。  それでも、自分が体通りの女の心を持っているとはやはり思えないのだった。  そもそも男でピンクや桃の花が好きな人はいるだろう。  ハルだって苺パフェを頼んで食べていたけれど、あれは女の子が好みそうなスイーツというイメージが何となくあるだけであって、実際には苺パフェが好きでない女の子も普通にいるし、逆に男で苺やパフェを好む人も当たり前にいてハルもその一人というに過ぎない。  自分の場合は恋愛として好きになるのがいつも女の子で、男の子に対しては「体の違う同性」としか感じられないという本質的な違和感をずっと抱えているのだ。  知らず識らず俯くと、並んで歩く二人の足が目に入った。どちらも履いているのはスニーカーだが、自分のそれはハルのそれの二回りは小さい。
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