第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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「男の子でしょ?」  コーラルピンクのネイルを施した美咲の指が示すLINEの画面には、“笹川陽希”という名前の隣に夕陽を浴びたハルの蒼白い顔が丸く切り出される形で収まっている。  これは上京する前日、家まで送ってくれたハルと二人で並んで撮った写真だ。  だから丸いアイコンの中には今と同じくポニーテールに結った自分の顔も上半分だけ侵入するようにして映り込んでいる。  アイコンをタップすると、自分の家を前に二人で並んだ全身写真の背景が現れた。 「イケメンだねえ」 「まあ、そうかもね」  赤ちゃん猫じみた笑顔ではしゃいだ調子で告げる相手にこちらも何でもない風な笑顔で返しはするものの、胸の内に黒い火が燻るのを感じる。  この子の口から他の男を褒める言葉を聞くのは嫌だ。  望みのない片想いをして、半ば社交辞令として褒められただけの幼馴染みにまで嫉妬している自分が惨めに思えていっそう胸の奥が暗く燃えた。  大体、ハルとこの子は会ったこともないし、これから知り合って親しく交流する機会があるかも怪しいのに。  仮に出会ったとしても、横浜のお嬢様育ちの美咲と自分よりも不遇な育ちの幼馴染みとで現実的に付き合う可能性があるとはちょっと考えにくい。  ハルが俺と同じようにこの美人さんに出会って惹かれたとしても、この子の周りには条件の良い男が沢山いてそれこそ引く手あまただろうし。  岡惚れしている自分と幼馴染みを残して他の男と笑顔で去っていく美咲の姿までが頭の中に浮かんできて、そういう劣等感に凝り固まった自分が滑稽に思えて苦笑いする。
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