第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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***** 「何かミオコ、急に目覚めちゃったねえ」  相変わらずファッション雑誌から抜け出した風な美咲はからかうような、しかし、意地悪さのない調子で猫じみた目を細める。 「今までが酷すぎたからね」  天然パーマの髪を下ろし、朱色のルージュを引き、黒のチュールスカートにぴったりした白い花模様のレースのトップス。  靴はスニーカーのままだが、足から上は大変化だ。  ほんのり匂うシトラスの香りはバッグに小汗をかいた時のために入れている携帯用デオドラントスプレーのそれだ。  汗臭い状態で美咲に会うわけにいかないのでここに来る前もトイレで一吹きした。 「休み中にちょっと服を買いに行ったんだ」 ――新幹線の予約席はもういっぱいだし、レポートの課題も出ていて資料の本を探したりしたいからGWは帰らない。  実家やハルにはそう伝えたが、実際のところは資料の本は休み前に図書館から借りてレポートを休みの初日に片付けた後は街に服やアクセサリーを見に行ったのだ。 「まあ、安物だけど」  赤文字のファッション雑誌に載っているような服やアクセサリーは親の仕送りで暮らす自分には高過ぎるので(あれはお金持ちの実家住まいか器用にアルバイトしてそれだけのお金を稼げる人がターゲットだ)、飽くまで小遣いで帰る範囲でのおしゃれだ。  それでも作ろうと思えば「おしゃれな女の子」という形は作れる。 「すっごく綺麗だよ!」 「ありがとう」  この子は元から他人に否定的な言葉を好んで浴びせかける真似はしないとは知りつつ、嬉しかった。  周囲からそれとなく向けられる眼差しも決して自分を冷笑する風ではないと空気で判る。  むろん、化粧してスカートを履いたところで自分が隣にいる美咲より一般には見劣りする容姿であることには変わりはない。 「おしゃれな女の子」というイメージに忠実に従う、そう見られる努力をするようになった人間に世間は概して優しいのだ。
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