第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

25/47
前へ
/319ページ
次へ
「僕のハハも彼のファンだから大騒ぎだったよ」  ハハ?  一瞬、間を置いて「母」と変換される。  え……?  虚をつかれるこちらをよそに一回り年上の相手は抹茶ラテを一口啜って付け加えた。 「チョン・コーウィンは僕の両親とオナイドシだから」  オナイドシ、と耳に届いた音声が頭の中で「同い年」という(こな)れた日本語に書き起こされる。  「そうですか」  こちらも相手に合わせてスプーンでクリームに切り込む。  シャリッと下の若草色のフラペチーノまで掬い取れた。  何だか新雪の下の根雪みたいだと思いつつ口に運ぶ。 「レスリーも生きていれば、もう子供どころか孫がいてもおかしくない年ですよね」  別に驚くような話ではない。  口の中で生温かい牛乳味のクリームと舌触りは氷そのもののようでうっすら甘苦い抹茶フラペチーノが入り混じるのを感じながら、頭の中で逆算する。  レスリーは存命ならもう六十代。今、三十歳のテディくらいの息子がいても全くおかしくないのだ。  ただ、四十代でも二十代で通るような風貌だったのに加えて四十六歳で亡くなっており、しかも自分が彼を知った時点で死後数年を経ていたので、そうした実年齢に即した想像がしづらかった。  日本の俳優で言えば、真田広之が確かレスリーの三、四歳下だったかな?  むろん、レスリーと真田広之で俳優として出てきた経緯も演じてきた役柄も必ずしも似てはいないけれど。  そんな対応関係を改めて思い巡らしても違和感があった。
/319ページ

最初のコメントを投稿しよう!

15人が本棚に入れています
本棚に追加