第二章:七夕の二人――清海《きよみ》の視点

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 ようやく眠りに就いても見る夢はあの晩の変奏ばかりだ。  ある夢では、私は激昂した夫から殺されてマンションのゴミ捨て場に用済みの大きな笹飾りと並ぶようにして投げ置かれる。  ムワッとした蒸し暑い空気の中で既に息絶えた自分の体が早くも腐って蝿のブンブン集り始める気配を感じながら、影になった笹を見上げると、すぐ目の前に提げられた真っ白な短冊には子供の字で “お父さんお母さんがなかよくくらせますように” と綴られているのだ。  他の夢では、流産から退院して帰ってきたその日の晩に ――お腹の子はかわいそうだったけど、また……。 と求められる。 「ここで拒否したから夫もああいう行動に走ったのだ」 と思い、嫌悪感を堪えて応じる。  しかし、夫から触れられる内に私の体は粘土か紙のようになって好き放題むしり取られ、グシャグシャにされるのだ。  また別な夢では薄っぺらいノートパソコンを前に 「嫌だ。もう内容は分かりきっている。見たくない」 と思っていても体が勝手に動いて画面を開く。  すると、そこに隠し撮られた屈辱的な姿を大量に保存されているのは、他ならぬ私自身なのだ。 ――ほら、もっとどうして欲しいのか言ってごらん。  勝手に再生された動画から夫の声が聞こえてきて胃の中が逆流するような感じに襲われて口を押さえた瞬間、頭のすぐ後ろから嘲りを含んだ声が響いてくる。 ――馬鹿だな、お前は。
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