第二十一章:偽りを断つ時――美生子十八歳の視点

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***** “GWは貴海おばさんたちと琵琶湖に行った”  LINEに投稿された写真に映る風景は説明されなければ湖というより海だ。 “水が澄んでいてびっくりした”  粒子のやや粗い砂浜に小波(さざなみ)が押し寄せた写真では、透き通った水の底に光る水紋が描かれ、湖水は深まりと共に澄んだ浅葱(あさぎ)色を帯びていた。  これもまるで珊瑚礁の海だ。  琵琶湖って確か淡水湖のはずだけど、水の成分は何だったかな? “一時間半のコースに乗ったらさすがにちょっと船酔いしてきつかったよ”  その後に投稿された写真には、蒼白いハルを真ん中にして似ていてやや浅黒い顔のマサキ君と小学二、三年生になったお下げ髪のシノちゃんの三人が甲板に並んで笑顔で映っていた。  三人ともどこか雛人形じみた切れ長い目の端正な面差しや日本人としては手足の長い体つきが一見して似通っており、事情を知る自分の目にすら、「年の離れた兄妹と再従兄弟」よりも「年子の兄弟と幼い末妹」という雰囲気だ。  マサキ君が清海おばさんのお葬式で会った中学生時代より色黒さが薄まった感じなのは、恐らく元の肌はさほど黒くはなく今は外で長時間スポーツする生活ではないからだろう。  一番小さなシノちゃんは撫子(なでしこ)色というかほのかに紫を含んだ薄いピンク色のワンピースを着て赤白のギンガムチェックのリボンをお下げ髪に結び、隣のハルの肩に凭れかかるように小首を傾げた体勢で映っている。  何だかこの年齢の子にしても却って気恥ずかしくて避けるようなステレオタイプな女の子らしい装いだ。  この子は自分が可愛いと知っていてそれを分かりやすい形でアピールしたいのだろう。  歯を見せない少し澄ました笑顔からもそう察せられた。  でも、それはこの子がきっと素直で健全だからなんだろうな。  生まれつき女であることに違和感がなく、ピンク色やリボンといった女の子らしいとされる物を疑問なく好んで受け入れているからこそ、自意識が出てくる年齢になっても妙な変化球をつけずにストレートな「女の子」になれるのだ。  そこに羨望と清々しさすら覚えた。  自分がこのくらいの時には頭はバレエ向けにハーフアップに結っているのに男の子向けのジャンパーやズボンを穿く中途半端な装いだった。
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